ダイビング・キット



ダイビング・キット(1)

カタカタカタ...

『サトシ:それじゃ、明日の夜10時、このアドレスに”ダイブ”して待っています』
『ヨーコ:え、え... でも、私”ダイブ”は経験ないし、ライセンスもないんですよ』
『サトシ:大丈夫です。ここは体験用のアドレスだから。リミッターも、ついています。
 安心してください。』
『ヨーコ:分かりました... 明日10時に。また...!』

洋子はネットからログアウトすると、ほっと息をついた。
新婚旅行の一番人気が「月」への宇宙旅行というこの時代だが、コンピュータの
入力はもっぱら、キーボードのままである。
ただ最近のコンピュータは、買ったときにヘアバンドのような「ダイビング・キット」というのが付いてきて、
好みのプロバイダのネット空間を使って、自由に「ネット・ダイブ」というバーチャルリアリティ
を楽しむことが出来る。
「ネット・ダイブ」では買い物やゲームだけでなく、運動や読書なども楽しめるので、
一気に流行するものと思われていた。
ただ、政府の倫理機構が「危険性を含んでいる」と判断して、使用にはライセンスが必要になった上、
新しい機器に慣れない人々が多いため、「ダイビング・キット」は、コンピュータを買っても
袋を開けられないままになっていることが多い。

しかし事実一部ではすでに、「ネット・ダイブ」を使っての「出会い系サイト」が作られ初めており、
高度な「バーチャルリアリティ」でしか体験できない行為が可能なため、「凄い」というウワサが
絶えることもなければ、公安に摘発されるサイトも後を絶たなかった。

皆川洋子も、そういうウワサに興味を持つ、一人のOLだった。
ただ元々そんなにコンピュータには強くなく、よくサポートサービスに電話やメールをしていた。
そんな時に、夢野聡と出会った。サポートの常連となった洋子のメールに、時々少しプライベートな
メールが混じったりしていた。そして徐々に個人のメールアドレスを交換したり、
チャットをするようにまでなってきていた。

そして洋子が既婚者であること、旦那との仲がうまくいっていなくて、ほとんど別居状態
であることなどを話してしまった。
そんな寂しさもあったのだろう。
洋子は聡に誘われるがまま、ネット・ダイブをしてみることにした。

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次の日、夜10時。
洋子は、昨日サトシに教えられたアドレスにアクセスした。そこには、いつもは見られない警告などが
出てきたが、教えられたとおりだったので焦らず、対応が出来た。
そして最後に、ダイビングキットを装着して「開始」を押したとき、洋子の意識はコンピュータの中に吸い込まれ始めた...

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